兄が好きな妹と妹が怖い兄の話。 (黒ひめコミック) | 時計 | マンガ | Kindleストア | Amazon

 アンリミ対象で、関連に出てきたのでなにげなく読んでみたら、かなりよかったです。

 さて、俺は自分で書いてるもののほとんどが兄妹ものっていうかなりこだわりのあるタイプです。兄妹ものの作品はかなりの数を読んでると思うんですが、ついさっきですね、ふと気づいたんですけど、有意に女性作家の作品ばかり好んでいることに気づきました。いくつか前のエントリで書いてる妹さんが泣いてるやつの作者が女性だと知ったのでなんとなく思い出してみたらそういうことになってました。

 ちなみに作り手の性別を気にするのはあまり好きではありません。というより俺は、原則的に「作ってる人間なんかいないほうがいい」という立場です。作品は独立したひとつの世界であり、だれかがそれを作っているという事実は、作品世界を消費する自分にとって不都合だからです。これは作り手への敬意とはまったく別の問題です。

 だいたい作り手の性別なんて、内田善美で世界がひっくり返ってからもう考えるのをやめました。

 とはいえ、大雑把な傾向はやっぱりあるんですよね。特に兄妹ものはその傾向が強いです。というのも、男性が強度に属性をまとったヒロインを描く場合、どうしても性癖が服着て歩いてるようなヒロインになりがち。それは俺のことか。俺です。生きててすみません。

 いや、俺のことはどうでもいいんですが、なんていうんだろ「妹」という概念、その概念に対する欲望のほうが先行してて、個別具体的な妹を描写するというよりは、やはり欲望のかたちを見せられている、という気分になることが多いです。

 じゃあ女性の作り手だとその逆か、というとちょっと事情が違っていて、こちらは「好きになった人がたまたまお兄ちゃんだった」というかたちになることが多い。要するに本質は単なる恋愛ものであり、そこに兄妹であるがゆえのドラマ性やらなんやらが付属してる、という感じです。当然ながらそこでは「兄」という概念ではなく、個別具体的なお兄ちゃんが描写されるわけです。女性の作家でエロ描く人も多くて、そういう場合、肉体関係が先行したりすることもあるんですけど、その場合でも、どうしても肉体関係と恋愛感情って分けられないものらしく、結局は心の問題に帰着したりする。まあベースが恋愛ものなんで当然っちゃ当然です。

 先にどっかのエントリで「主人公が好きになられる理由がない作品は厳しい」というようなことを書きましたけど、それでいうと、女性作家の描く兄妹ものには「お兄ちゃんが好きな理由」が描写されないはずがないわけです。ちなみにこの場合の「理由」っていうのは、別に明確なものでなくてもかまわない。たとえハーレムもので主人公が陰キャのブサでもかまわない。好かれる理由があればいい。そんなもん、千差万別ですから。

 あと女性作家による兄妹ものは「妹がお兄ちゃんを好きになる」ので、必然的にお兄ちゃんはかっこよくて妹一筋であることが多いです。あんま複数ヒロイン好きじゃない人間としてはその点もよいです。

 

 で、話をこの作品に戻しまして。

 ここまで書いたような女性作家の作る兄妹ものの特徴を極端に推し進めるとこうなる、というような作品です。つまり妹さん側の片思いですね。この作家さんのほかの作品をまったく知らないのでまったくの憶測なんですが、これたぶん、兄妹ものにこだわりがあるというよりは、成熟しない関係性そのものに興味があるような気がする。というより、最初の話のアイディアがあまりに秀逸だったんで、アイディアありきの作品かもしれませんが。

 それとこの作品、双子の妹がそれぞれ別の兄に恋愛感情を抱いてる、というちょっと珍しい構成なんですけど、二人の妹さんのそれぞれの恋愛のありかたが、対照的なのもすごく効果的。メインとなる語り手の妹さんはヤンデレ風味で、つまり身勝手にも思える恋愛感情を振り回して八つ当たりする、という感じになってるんですけど、俺が物語を通じて摂取したいのは「大好き」の強度そのものなのでそういうの大好物ですすごくよかったです。

 というより、妹さん側の片思い兄妹ものって、少女マンガではわりと古典的なテーマだったりして、昔からそういうの大好きだったので極端な話、お兄ちゃんの存在は別に希薄でもいいや、という感じもないではないです。